スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

花嵐

────それはきっと、幼い頃の記憶の断片。


陽光の中、強い風が吹いて、仄赤い花弁が一斉に舞い踊る。
それは、息も吐けぬ程に鮮烈な光景。


綺麗だと思うのに、何故か酷く恐ろしい。


見回せど、頼れる父兄の姿は何処にも無く、心細さは弥増す。
我知らず涙が滲み、震える喉の奥から恐慌の声が迫り上がって来る。


そんな時だった。
聞き知らぬ、それでいて優しく響く声が、耳に────。




「香」

夜桜をぼんやりと眺めていた香は、背後から掛けられた声に、はっとして振り返った。

「撩」

「話は終わったよ。さっさと帰ろう────……如何した?」

酷く驚いた顔をしていたらしい。
撩は不思議そうな表情を見せ、目を瞬かせた。

「何でも無い。桜に見入ってただけ」

香は頭を振り、不意を突かれただけだと正直に答える。
すると撩は、一瞬だけ探る様な視線を向けた後、呆れたと言いたげに僅かに眉根を寄せた。

「無事に依頼が片付いたからって、ぼんやりするなよなぁ」

「御免」

「良く言うだろぉ、『家に帰り着くまでが依頼です』って」

「何それ」

聞いた事が無いわよと香が苦笑すると、良いから帰るぞと撩は歩き出した。
今回の依頼に、香は殆ど関与していない。
だから、撩に掛かった負担が如何程の物だったのかも、推し量る事は出来ないのだけれど。
疲れているのは間違い無いだろう、早く休ませて遣らなければ。
香は撩の後に続こうとして、けれど頭上からはらはらと落ちて来た一片に気付き、右手を伸ばす。

「きりきり歩けぇ、俺ぁ腹減ってんだから────……って」

掌の上に留まった桜の花弁は白い。
山桜だろうか。
桜の一片をやんわりと握り込みながら顔を上げると、顰めっ面を此方に向ける撩と目が合った。

「歩く所か一歩も動いてねぇし。
とっとと帰んぞって言ってるだろうが」

「御免なさい」

素直に謝って、香は小走りに撩の許へと急ぐ。
撩の左脇に並び、漸く二人歩き出すと、撩の左手が香の右手に伸ばされた。
やんわりと手首を掴んだ手は、撫でる様に拳に触れてから、握り込んだ手指を開かせて行く。
香は抵抗する理由も無いので、大人しく撩にされるが儘だ。
そう言えば、撩に触れられるなんて、暫く無かった。
今迄もこれからも、色を含む事は無いだろう触れ合いであるのに、自然と頬が熱くなる。

「山桜だな」

掌の上の一片を面白く無さそうに一瞥し、撩は前方へと視線を戻す。
そして僅かに歩を速め、絡まった儘の手指をぐいと引いた。
握り締める事が出来なくなった右手から、桜の一片が零れ落ち、はらりと地に落ちて行く。

「あ」

声を上げたけれど、香の手を引く力は緩む事は無い。
余程空腹なのだろうと、香は手を引かれる儘、前に進む事にした。
視線を感じて顔を上げれば、此方を振り返って見ている撩と再び目が合った。
抵抗しない香に機嫌を良くした様で、口許に笑みを浮かべると、撩は前方へと向き直る。

「押し花にしようと思ったのに」

「髪にくっつけてる分で十分なんで無い?」

「え────」

何処に、と尋ねようとした時、強い風が吹いた。
周囲の木々がざわめき、桜の花弁が一斉に風に舞う。


視界を覆う花弁の乱舞に、一瞬、撩を見失った。


怖いと思う。
何時かの様に。


「香?」

はっとして撩を見る。
不思議そうに此方を見る撩は、視線が合うと、何故か優しく笑い掛けて来た。

「夜桜見物はもう十分だろ? 早く帰ろうぜ」

「────うん」

絡めた手指に力を籠めている事に気付かない儘、香は緩く頷く。
撩との距離を縮める様に歩を進めると、更に撩の笑みが深く成った。

「大丈夫だよ。
来年も再来年も、ちゃんと約束通りにプレゼントして遣るから」

「────うん」

撩の言葉が指し示す物が何かは理解出来たから、強く頷いた。


その後、今年の分が抜けてはいないかと尋ねて、小突かれた。
今日が三月三十一日だと知ったのは、その時だった。

スポンサーサイト
  1. 2014/03/31(月) 03:26:00|
  2. 記念
  3. | comment 0

花咲まひ

街路の桜が綻びていた。
たったそれだけの事で、はっとする様な綺麗な笑顔を浮かべられるのなら────。




「────もっと笑やぁ好いのに」

リビングルームのソファで転た寝している香を眺めていたら、口を突いて出た不満。
声音には自分で思う以上の不機嫌さが滲み出ていたから、撩は僅かに眉根を寄せた。
三月二十六日を誕生日と定められてから早数年。
巡り来るその日を明日────否、後十数分後に控え、撩は上機嫌だった筈だった。
少なくとも、夜遊びに偽装した情報収集から帰宅したその時までは。
収集し得た情報の限りでは、今年の撩と香の誕生日は平穏無事に過ぎると確信出来た。
香は例年通り、自身の誕生日等其方退けで、半月程前から誕生祝いの準備に余念が無い。
年々増え行く友人知己も、何かしらささやかなサプライズを計画している様子だ。
その諸々において、嘗ての撩ならばいざ知らず、現在の撩には不機嫌になる理由を見出す事は出来なかったのだから。


では何故、不機嫌に転じたのか。


これに目を留めたのがいけなかったのだと、撩は安らかに寝息を立てる香の膝上に目を遣った。
其処には、頁が開かれた儘になっている一冊の雑誌。
春めいた色で彩られ、全国の開花・満開予想情報が掲載された頁。
此奴の所為で、昼間の些細な遣り取りを、香の笑顔を、想起する羽目になったのだ。




────冷たい風に揺れる枝の先、ぽつぽつと咲いた花と綻び掛けの蕾。
珍しくも先にそれに気付いたのは撩で、前を歩く香を呼び止めた。
足を止め、振り返った香は、撩の視線を辿った先に見付けた桜花に僅かに瞠目した後。

「あたしの誕生日の頃には満開かな」

そう言いながら、得も言われぬ笑顔を浮かべたのだ。
撩では無く、桜に向けて。




あの時の昂揚と、同時に覚えた心に鑢を掛けられた様な不快感を思い返し、撩は顔を顰めた。
律儀な香はあの後撩に礼を述べたが、振り向いた顔に既にあの笑みは無かった。


路傍の花には、易々と笑って見せる癖に。
俺には勿体無いか?


そんな事さえ思った事に、莫迦な事をと、撩は溜息を零した。
己の心の中を打ち明けてから暫く経つが、未だ二人の間に劇的な変化は無い。
これまでと変わらぬ日々、これまでと変わらぬ遣り取り。
相も変わらず道化た軟派を演じ、香を好き放題振り回している。
それで如何して、見惚れる程の笑顔を要求出来るだろう。


嗚呼、けれど、せめて────。


巡る思考は再び先の不満に帰結し、撩は今一度溜息を零した。
手を伸ばし、香の膝上からそっと雑誌を取り上げて、静かに頁を閉じてテーブルの上に置く。

「香」

渋面を消し、未だ胸中に蟠る物を押し隠して、撩は努めて優しく声を掛けた。

「風邪を引いてしまうよ、香」

「……りょ……?」

起きろと続ける前に、香の睫毛が微かに震え、それから薄らと瞼が開かれた。
一度瞼を閉じ、ゆっくりと開いて、琥珀の双眸に撩を映すと、香はふんわりと微笑んだ。

「……撩……お帰り……」

「ただいま」

常ならば迎える言葉よりも先に夜遊びへの諫言を口にする香だが、今夜はそうでは無かった。
撩の夜遊びは日を跨ぐ事が多いから、既に日付は三月二十六日だとでも思っているのだろう。
誕生日の間は、撩が余程の悪巫山戯をしない限り、香の撩に対する態度は甘やかだ。
その事に少し機嫌を持ち直すと、撩は香の頭に手を置き、柔らかな癖毛をくしゃりと掻き回した。

「寝るんなら部屋に行けよ、大分冷え込んで来たぞ」

「うん」

香が小さく首肯するのを見て、撩は手を離し、一歩退いた。
香はソファから腰を上げようと身動ぎ、其処で膝上に視線を下ろし、テーブルへと視線を移す。
それから再び撩を見上げたので、撩は小さく肩を竦めて見せてから、くるりと身を返した。
背後で、香が立ち上がる気配がする。
足取りは確りしている様子だから、大丈夫だろう。

「俺ももう寝るわ」

「撩」

「ん?」

呼ぶ声に足を止め、振り返る。
と、撩の右肩に手を置き、背伸びした香が掠めるだけの口付けを施した。
予想外の出来事に、撩が素直に驚いた表情を見せると、香は頬を赤らめながらも笑った。
昼間見惚れた、あの笑顔で。

「誕生日おめでとう」

顔が、耳が、勝手に熱くなって行く。
狼狽えながら、撩はリビングルームの壁に掛けた時計に目を走らせた。
時計の針は、午前零時を少し回った時刻を指し示している。

「ちゃんと確かめたよ」

撩の様子を見て、香が可笑しそうに笑う。

「良かった、今年は一番に言えたわ」

斯う言う時、一体如何言う顔をすれば良いのだろう。
らしくも無く顔を赤くした儘、困った様な、拗ねた様な表情で、撩は漸う口を開いた。

「────それで待ってたのかよ」

「そう言う訳でも無いけど」

逡巡する様に言葉を切り、香は撩を見上げた。

「……昼間、機嫌悪かったでしょ。
気分転換には、なるんじゃないかと思って」

「────そうだな」

実際は気分転換所の効果では無いのだが、此処は努めて冷静に返答して置く。
だが、素っ気無い言葉でも、香は十分に満足した様だ。

「それじゃあ、寝に行くわ。お休み、撩────」

「香」

踵を返そうとした香を、撩は呼び止めた。
それこそ用件等、何一つ無かったと言うのに。

「うん?」

「あー……。その、何だ、朝は早起きして遣る。だから────」

「────うん!」

ぐしゃぐしゃと自身の髪を掻き毟り、撩は何とか言葉を捻り出した。
不思議そうに聞いていた香は、それはそれは嬉々とした笑みを浮かべた。
幼子の様に大きく首肯すると、今度こそ踵を返し、自室へと戻って行く。

「ガキかよ」

香を見送り、一人になったリビングルームで、撩は呆れた様に呟いた。
我知らず、それはそれは幸せそうな笑顔を浮かべて。


雪解けを辛抱強く待ち、花は開く。
緩やかな変化しか無くとも、二人の間にも、春は訪れている。

  1. 2014/03/26(水) 03:31:00|
  2. 記念
  3. | comment 0

NEW ENTRY | BLOG TOP |  OLD ENTRY

プロフィール

一片

Author:一片
泡沫の如く結びて消えて

案内

CITY HUNTER 二次創作物倉庫

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

Designed by U-BOX


FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。